ごはん地獄


修理している時間に少しだけ時間が空いたので、ごはんを食べに行った。
新宿辺りでごはんを食べることはなかったので、しばし迷う。
とりあえず、思い出横町というところがあったので、入ってみた。
美味しそうなメシを食わせてくれそうな店がいっぱい並んでいた。
しばらく歩くと、「びっくりかきあげ定食」というメニューがある店を見つけた。なんか気になったから入ってみた。


他の店とは違い、えらくこぎれいな店・・・って、あれ?松屋じゃん!思いっきり松屋じゃん。新メニューか?


と思ったら、どうやらこの店は、定食を主に出してくれる、特別な松屋だったらしい。
それならいいか、と食券を買う。


…高い。松屋とは思えない。750円とか平気でするんだよ?
とりあえず俺はその中でも一番高い750円の「びっくりかきあげ定食」の券を買った。
楽器が直った記念にこれぐらいはいっかー、的なノリで決めた。
あとでこの決断がとんでもない間違いになると言うことを、まだこのときの俺は知らない。


びっくりかきあげ定食頼む。普通の松屋と違って結構時間がかかる。
…すると、他の席の人に、びっくりかきあげ定食来る。とりあえず見てみる。


・・・でかい。これがまた、でかい。むちゃくちゃでかい。かきあげの常識を覆してる。
すげえでかい!これが。これだけでジオンが十年戦えるぐらいの大きさ。
しかもごはん大盛り無料ですよ奥さん。しかも卵と漬け物食べ放題。
これでジオンはあと10年は戦えるね。さあこい地球連邦、な気分になるね。


暫く待っていると、かきあげ定食来る。


・・・よく見ると、鯖の塩焼きまでついている。かきあげ、漬け物、卵だけでも10年は戦えると踏んでいたのに更に鯖の塩焼きまで!俺はこのときジオンの勝利を確信したね。しかも大盛りごはんが結構多い!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!ジーク・ジオン!


かきあげ食う。ボリュームがあってうまい。最高にうまい。かきあげ万歳。
鯖の塩焼き食う。松屋とは思えないくらいよく出来てる。いい仕事してるでホンマに。
ごはん食う。うまいごはんだ。俺の心の中のジオン公国は今ジャブローを制圧して完全勝利してる。


だが、そんな脳内ジオン公国の栄光にもかげりが見え始めてきた。


なんと、白米を食べ終わってしまった。
かきあげは半分以上残っているのに、である。これはかなりのピンチである。
想像してみるといい。ごはんがないのに大量のかきあげを食うという行為を。
これが結構キツい。しかも、かきあげが衣を二度付けして容量を水増ししていることに気づいたために、だんだん脂っこくなってきて飽きてくる。松屋だからそんなもんだとは思っていたが。畜生。


ごはんをおかわりしようにも、おかわり無料とはどこにも書いてはいない。
どうも物資の多さが災いしたようだ。俺の中の脳内ジオン公国が内部崩壊し始めた。
ごはんのおかわりを頼んでる人はいない。だんだんかきあげに飽きてくる。
分け入っても分け入ってもかきあげ、な山頭火なかきあげにだんだん腹が立ってくる。
ああ!おかずがあるのにごはんがないなんて!ああ!もしこれがオペラだったらこのシーンでテノールがごはんがないことについて高らかに歌い上げる、そんな気分。オーケストラがテノールの苦悩を表現するような、そんな気分。どんなんやねん。


おかわりを頼もうにも、そんな空気じゃないし。


どうすればいいんだ。


…と、そのとき隣に座った初老の男性が、さんま定食を頼む。


相変わらずかきあげと格闘する俺。


さんま定食来る。すごいおいしそう。
はらわたもしっかり入ってるように見える。なんと、もみじおろしまでついているという豪華さ。


ああ!聞きたい!この初老の男性に聞きたい!「はらわたついてるんですか?はらわた下さいよ!このかきあげとはらわた交換しましょうよ!」と、妖怪はらわた吸いみたいな勢いで聞きたい!それぐらいうまそうなさんまであった。ああ!あのときさんま定食を頼んでいれば!


一応かきあげを食べ終わったが、なんか釈然としなかった。
あとで券売機を見てみると、ごはん単品でたのむことはできないみたいだった。
これはひょっとして、おかわりってアリだったのでは?と今でも釈然としない。


結論:びっくりかきあげ定食は地雷